日々の雑記

参加しているPBW全般に関する日記。最近はPLの日常が段々侵食してきています。
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偽シナ【空腹少女と料理大会】
●オープニング


夏も終わり、過ごしやすくなってきた秋の昼下がり。
 秋特有の高く澄んだ空で、地上を明るく照らしてくれる太陽。その優しく暖かい日差しを受けながら、レイナは上機嫌に散歩をしていた。
 何の目的もない、ただぶらぶらするだけの散歩。
 しかし、良い気分転換にはなる。特にこんな陽気な日には。
 いつもの日常のツッコミしたりや弄られるのは嫌いではない。嫌いではないが……それでもやはり多少の疲れはくる。たまには一人でゆったり過ごす時間もほしいのだ。
(さて、今日の夕飯は何にしましょうか…)
 帰り道に買い物に寄ろうと思い、レイナは食べ物に思いを馳せる。
 ……が、ふとその足を止めた。
 微細な……しかし注意深くすればはっきりと分かる「それ」に気づいて、表情が真剣なものに変わる。
(……ゴーストが近くにいる……?)
 そのことに気づく事ができたのは、まるで自分に……否、周囲にいる全ての人間に存在感を示すかのように、あからさまな気配を「それ」が出しているからだった。
 気配を辿ると、すぐに大体の居場所が分かる。近くにある、大きな公園の隅。
 周りの一般人がそれに気づいている様子はない。もしくは、気づいていても無意識のうちにそれを避けているのだろうか。
 どちらにしても――
(放っておくわけにはいかない、わよね……)
 今は大丈夫だが、このまま放っていていたらいつ犠牲者が出るか分からない。早急に対処するに越した事はない。
 そして幸いな事に、気配の大きさから推測したところ、力はそんなに強力というわけでもないようだった。これなら自分一人でも十分倒せる。
 一つ頷くと、レイナは気配のする公園へと走った。
 

 気配が発せられている場所に行くと、そこは公園の片隅……木が生い茂り、人の影が全くないような林の中だった。
 そして、レイナはそれを見つける。一本の元に添えられている花束等のお供え物を。
「首吊り自殺……でしょうか。なるほど、誰も近寄らないわけね……」
 お世辞にも多いとは言えないお供え物を見ながら、レイナはつぶやく。
 曰く付きな場所。しかも少し霊感がある者にとっては、嫌な気配が漂いまくっているのが感じられるのである。
 まともな者であれば近寄ろうとはしない。
「さて、それでゴーストは――――っ!?」
 目的を探そうと辺りを見渡そうとしたところで、レイナは自分の背中に冷たいものが走るのを感じた。
 漂っていた気配が、今までとは比べ物にならないほどに膨らむ。
(嘘、今まで気配を抑えていたの……!?)
 勝てない――その言葉が脳裏に浮かぶ。
 明らかに相手は自分よりも強い。自分のほかに数人いればまだしも、とても一人だけで対処できる相手では……。
 と、その気配が急に消えた。
「…………え?」
 レイナの表情に、戸惑いと驚きの色が浮かぶ。
 その表情の理由は、急に敵の気配が消えた為だけではない。
 今、一瞬だけ見えた敵の姿。あれは――。


 それから数日後。
 「皆、ちょっと集まって」というレイナの言葉に、団員、及び友好の者達は黒板の近くに集合していた。
「で、急にどうしたんー?何か企画するとか、そういうの?」
 ヴァイスリットの言葉に首を横に振って、レイナはいつもより少し真剣な表情で口を開いた。
「皆にお願いがあるの。……ゴースト退治のね」
「……。え、ゴーストっつーと、あのゴースト?」
「他に何があるの……?」
 当然、と言う風に即答するレイナ。
 だが驚くのも無理はないだろう。何しろここは家庭科室。ゴースト退治とはあまり縁のなさそうな所だ。
「だけど、何でレイナたんがそんな話持ってくるんだ?そういうのは、教室の放送を通じてが普通だと思っていたんだが?」
 楓がもっともな疑問を投げかける。他の者達も差異はあれど、同じような疑問を持った表情をしていた。
「んと、無理やりお願いして運命予報士の人からもらってきた…。ちょっと事情があってね」
「事情……ですか?」
「ええ、そのゴーストだけど」
 シャルロッテの問いかけにいったん言葉を切ってから、レイナは答えた。
「……私なの」

「……びっくりしましたわ。私はてっきり、普段から弄られていたライデリングさんのストレスが残留思念に詠唱銀が放り込まれてそんな事になったかと……」
「そんなわけないでしょう」
 説明を聞き終えた要姫がふう、と胸をなでおろして呟くのに、ボソッとツッコミを入れるレイナ。
 運命予報士によると数日前、レイナが出会ったのはものまねを得意とする芸人の怨念で出来た地縛霊という事だった。
 地縛霊自体の能力は決して高くはない。
 しかし、一つ厄介な能力を持っていた。それが――。
「テリトリーに入ってきた者の容姿、能力、思考能力……その全てを真似する力ですかー。それは厄介ですね」
 仄水がこくこく頷き……ふと何かに気づいて驚愕の表情になった。
「はっ……!ということは、本人に嫌われる事なくレイナさんハグし放題ですか!?」
「着せ替えとかもし放題か!これは燃えr」
「黙りなさいそこの変態。まあ、そんな余裕はあるか分からないけどね……」
「えっと、カズマさんが速攻で黙らされて隅っこでのの字書いてますけど……良いんでしょうか」
 文がカズマを気遣わしげに見ているが、レイナは知らないふり。相変わらず酷い扱いである。
 まあそれはともかく……更に厄介な事に、どういった理由かその力は本物のレイナよりも強力になっているらしい。
 申し訳なさそうな顔をして、更にレイナは口を開く
「で……これは本当に悪いのだけど。この戦闘、私加われない」
「加われない?」
「この地縛霊、シャイらしくて……物真似した人が視界に入ると決して姿を現さないし、すでに出現していても姿を消すの。これは普段も同じで、物真似した人の趣味とかで出現条件が変わるみたい」
 一枚の紙……おそらく運命予報士からもらったのであろうメモを見つつ言うレイナ。
 その言葉でふむ、と頷いた翔が早速たずねる。
「で、おやびんの姿をしたその地縛霊の出現条件は何ですか?」
 レイナはその言葉に答えず、黙って一枚の紙を差し出した。そこに書かれていたのは――。
「料理コンテスト、ですか?」


 紙……料理コンテストの募集要項に目を通しながら、アメルがその内容を読み上げる。
「場所はレイナ様が地縛霊にあったという公園。開催時間は夜で、メニューはディナーになりそうなものならば何でも。しかも制限時間内なら、何品作っても良いのですか……」
「それはまた、自由度が高いにゃー」
 望がふむ、と感想を言う。
 しかし何でも良い、何品でも良いと言うのは意外と難しいかもしれない。
味は元より、栄養バランス、色彩の美しさ、食い合わせのよさ――それら全てが採点の基準となるだろう。
「で、これの匂いか何だかで凶暴化した地縛霊(レイナ)が内気を超越して、公園の片隅から姿を現した状態で会場に向かってくるみたい。……運命予報士の人が言うにはね」
「えっと……それはとってもレイナさんらしい出現条件ですね♪」
「……うるさい、にこやかな顔して言わないで」
 アリスの笑顔から目を逸らし、「あの時夕飯の事考えていたのが悪かったのでしょうか……」とかぶつぶつ呟くレイナ。
 彼女も女の子、色々と複雑らしい。
「まあ、それはともかく。良かったらこの料理大会に参加してみるのもいいかもね」 
 レイナの提案に、三角が首をかしげる。
「そんなことする暇があるのかえ?」
「審査の終盤のタイミングで来るようだから。料理人として参加するなら、料理して審査の途中で抜け出して、何食わぬ顔で戻ってくれば可能ですって」
 ちなみに、会場から歩いて10分ぐらいのところで遭遇するらしい。
 なお、一般人を巻き込む心配はしなくてもいいという事だった。……ただし止められなければ、審査終盤でほとんど料理がない状態でレイナ(地縛霊)が来る。
 そうなれば、八つ当たりで凄まじい惨事となるだろう。
「ちなみに、私は会場で待機の予定。私の姿見たら消えるようだし、最悪は免れるでしょうから」
「楽な…役どころ…だね…」
 ボソッと呟いたシルの言葉に、バツが悪そうにレイナは目を逸らす。
「……まあ、一応悪いとは思っている。でも、個人的にあまり知らない人に任せたくなくて……」
 謝った後、レイナは改めて一同に向き直った。
「我儘は承知だけど……一緒に来てくれる人はいるでしょうか?」


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●偽マスターより
いくつか補足を。
最初は殺人料理シェフの予定だった敵は、こゆっき発案により改造強化暴走レイナ・ライデリングに。
それと、彼女と志を共にする獣型のゴーストが二体。
それぞれの能力は以下の通り。

・改造強化暴走レイナ・ライデリング
能力値傾向はPCのレイナと同じ。
主にレベルとそれにともなう能力値の増加、体力にボス補正。
ただし基本攻撃力はやや低め。

使用能力:
・ハリセンアタック(黒影剣)
・コケコッコストライク×たくさん(暴走黒燐弾)
・ちゃぶ台返し(呪いの魔眼)
・炒飯を食べる(黒燐奏甲)
・ニワトリを頭に乗せる(旋剣の構え)

戦いにおける思考パターン、知能もレイナと同程度。
ツッコミ仕様の装備ですが炒飯以外の食べ物を求め、あくまで戦い方は冷静に容赦なく向かって来ます。

なお、物真似能力は戦闘中は使用しません。
またレイナの記憶は持っていない為、参加者のジョブ構成等は不知です。

テリトリーは公園内全域で、「縁が深い場所」はOP中でレイナと遭遇した場所。
料理コンテストを無視すれば「縁が深い場所」で戦う事も可能。ただし難易度は跳ね上がるのでそのつもりで。

・狼×2
気魄特化。主に体当たりや噛みつきによる近接攻撃。
一瞬で炒飯を食べ切ります(?)
体力、能力値共にレイナより低め。

基本の戦術でよほど油断をしてなければ、十分勝てるかと。
ネタに走ったら受けてたちます。


流れは、調理→審査→戦闘→事後(コンテストの結果発表とか)になる…予定。
料理コンテストは皆なら参加してくれると信じてるっ(何

コンテストではOPで上げたように料理についてが全体的に評価される他、調理中の光景も審査に判定に加味されます。
なお、レイナはちゃっかり審査側に回ってる。何故か。
プレイングの傾向にもよるけど、基本的料理≧戦闘ぐらいの描写になるぐらいの予定。


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●その他
・参加表明、及び相談はこのスレで行ってください。
・募集人数は最大10人まで(あくまで最大です)
・参加募集は10月19日(日)24:00まで。その後相談期間とし、プレイング提出は10月26日(日)8:30までとします。
・プレイングは基本600字まで。ただしやりたい事があれば800字ぐらいまでは可です。
・アビリティ、装備はプレイング提出締め切り時のものを反映。一応、詳細をプレイングに記載にしてくれれば喜ぶかも。
・質問があればこのスレで回答しますが、曖昧な箇所は都合よく解釈してもらって構いません。

リプレイは1~2週間以内に完成させられるよう努力はしますが、遅れてしまった場合はごめんなさい;
プレイングはレイナにお手紙で送って下さい。


長々と失礼したけど、よかったらご参加お願いします(礼)
<リプレイ>


●開幕。そしていきなり目立つ者。


「お集まりの皆さん、この度はご来場下さってありがとうございます!」
 たくさんの見物客と審査員の視線の先にある、夜の公園に建てられた特設ステージ。
 ライトアップされたその場所で……一人の少女が、今ここに料理コンテストの始まりを告げんとマイクを片手に悠然と佇んでいた。
「楽しく、美味しく、そして幸せな一時を貴方に……。第一回、チキチキ!……ち、ちきちき?…ぁ、えと、とにかく」
 外国人を思わせる儚げな純白の肌、そして少女特有の活発さとを感じさせるくりっとした翡翠の双眸。
 顔立ちは整っているが、少女特有のあどけなさもまた併せ持っている。綺麗とも可愛いとも評す事ができる、その少女――。
「くっきーーんぐ!こーんてーすと~~~!ですっ」
 満面の笑顔でなぜか司会をしている黒城・文(黒の継承者・b34449)の元気な声に、わああ、と歓声をあげる見物客達。
「……なあ、何で文があそこにいるんだ?」
 料理コンテスト参加者として、ステージの下にある調理台からその光景を見上げていた水無崎・楓(住処募集中・b46118)が、隣にいたヴァイスリット・ヘルミナージュ(夜分かつ極光・b05280)にこっそりと声をかける。
 しかし、ヴァイスリットにもそんな事がわかるわけもない。
 彼はうーん、と少し考えた後……やがて、ある事を思い出してぽんと手を打った。
「あ、そういやここに来る前にお菓子以外は専門外で、コンテストには出場できそうにないって言ってたな」
「ふむ……それで司会者になったのでしょうか。なかなか美味しい所を持っていきますね」
 楓を挟んでヴァイスリットの反対側にいた翔がむぅ、と呻く。個人的になにか悔しいものがあったらしい。
 「さっき、文さんがコンテスト運営人達と司会をさせてくださいって頼み込んでいたのを見たにゃー」
二人でぼそぼそと話していると、いつの間にか傍に寄ってきていた金村・望(お気楽御馬鹿少女・b27894)が口を開いた。
 彼女の証言によると、運営の人達も最初はさすがに渋っていたが……文の渾身の「お願い」が功を成し、最終的に本来の司会者のサポート役として抜擢されたらしい。
本来の司会の人は男性だったそうだから、ぶっちゃけ運営も華が欲しかったのかもしれない。
「……で、望はどうやってその様子を見ていたんだ?」
「企業秘密にゃー」
 ふと気になった楓が尋ねてみたが、彼女はそう返しただけで元の場所へと戻っていってしまった。ちなみに彼女の持ち場は、ステージを挟んで反対側だったりする。
 なぜわざわざここまで来たのか……相変わらずよくわからない猫少女である。口調だけでなく、気まぐれさも十分猫っぽい。
 楓がステージ上に視線を戻した。
 本当の司会者らしいタキシードを着た男性が司会をしていて、文がそれに上手く合いの手を入れたりコメントしたりで会場は良い感じに盛り上がっていた。
「さて、それでは私は一旦これで失礼させてもらいますわね」
近くにいた桐村・要姫(桐花・b30276)が、その場の人達に声をかけた。
「あれ、コンテストには出ていかれないのですか?」
 同じくその場にいたアメル・リリーシュ(方向音痴なゴスロリメイド・b22841)が、首を傾げて要姫の方を見る。
 てっきり皆出場するものだと思っていたのだが……。
「私の料理は民宿向けの、質より量を多く作るようなものですから。では、頑張って下さいましね」
「俺も同じくー……。まあ、俺はただ単に何作るか思いつかなかっただけなんだけども。んじゃ、頑張ってなー?」
 要姫が去っていくのに合わせ、ヴァイスリットもひらひらと手を振った後に見物客の方に向かっていった。
 それを見送った詩刻・仄水(曼呪沙華・b29672)が怪しげな笑みを浮かべる。
「ふっふっふ、これでライバルが減りましたね……」
「仄水さん仄水さん。……ちょっと黒いですよ」
「いえ、決して事前に参加者を祟ったりなんてことはしていませんよ?」
 誰もそんな事は聞いていません。
 そう言いたくなったのを翔がぐっと堪えたりしている内に、司会者と文によって進行は進み……ついに始まる直前になった。
「さあ、今回のメインとも言えるイベントの始まりですね」
「うふふ、腕が鳴りますね」
 待ちに待った、と言わんばかりに楽しそうな笑顔を浮かべるシャルロッテ・キルハイム(ローゼンクロイツ・b08426)とアメルが見る中で……。
「それでは料理スタート、です~~~~~!!」
 文がピーッ!と笛を吹き、コンテストは開幕された。



●激闘、料理対決!

 ここから先は、時系列を平行させてお送りします。


〇謎の料理人の場合。

「さあ、ついに始まりましたチキチキクッキングコンテスト!……おおっと、一際目立つ服装をしている料理人がいるぞ!?」
 始まるや否や、ステージの下に降りてきたメイン司会者がいきなり声を張り上げる。
 その視線の先にいたのは――。
 ツンツンしている銀髪に、にやりとした不敵な笑み。見る角度によっていちいち七色にその色を変化させる、見る人の眼に優しくなさそうなグラサン。
 そして何よりも一番目立つのは、ハードボイルドな雰囲気を漂わせているにも関わらず、着ているものは天使の羽根のごとき純白さを持つ新妻フリフリエプロン!はっきり言ってちょっと気持ち悪い!
「彼の名は、K……!流れ料理人という事以外、全てが謎に包まれた謎の料理人さんですー!」
 文の緊迫感のある声が響き渡る。
 その異様とも言える彼の雰囲気に、一同は――。

(カズマか)
(カズマさんにゃー)
(沢城さん……ですわね)
(カズマよね……)
(カズマさんですね)
(あらあら、カズマさんったら)
(カズマさん、さすがですね……)
(なんだ、沢城様ですか)
(カズマ……なんやろうねぇ)

 見事なまでにまったく同じ人物を想像した。
 まあ隠しているのは目元だけだし、知っているものに正体がばれるのは当然といえば当然ではあるのだが。
(ふっふっふ、この俺の完璧な変装は誰にも見破られまい!)
 バレバレです。
 謎の料理人Kこと沢城・カズマ(の奇妙な冒険・b31224)はそう自信満々に思いつつ、友人の小雪からもらった調理器具30点セットを取り出して調理を始める。
 彼が作ろうとするのは料理は漢満席……は多すぎて一日で食べ切らないので、中華メドレー――でっぷり太った北京ダックや特大乾燥アワビのステーキ、アンコ・ド・カンテーヌ(※ただのみつまめ)、他色々――である。
「さあ、久しぶりに存分に腕を披露させてもらうぜ!」
 見た目の割には、確かに手慣れた動きで次々と調理台の上に料理を生みだしていくカズマ。
 ……なお、完成した料理に対しての審査員の評価は、『調理人の見ための割りに美味しい』『調理人の見ための割りに出来が良い』など、全てのコメントに『調理人の見ための割りに』が前につけられていた事を補足しておく。


〇住み処募集中の小学生の場合。

(カズマ、なかなかやるな……しかし負けてはいられん)
 謎の料理人の方を横目で見ながら、楓は自分の調理を始める。
「俺が使うのは……これだっ!」
「おっと、楓選手なにかを取り出しました!これは、えーっと……あじですね!」
「……秋刀魚、なんだけどな。どう見ても」
「………………」
「………………」
 沈黙してお互いに見つめ合うこと数秒。
「か、楓選手凄いです……!ボクより年下なのに、お魚についてすごく詳しいですよ!」
 心の底から感心した声をあげる文。
「……いや、普通あじとは間違えなくない……か?」
 まあ、知らない人は知らないという事で一つ。
 そんなマジボケなのかいまひとつわからない文の実況っぷりに、楓はボソッと突っ込みつつも準備を進める。
 新米のササニシキを炊き始め、その間に丁寧なうごきで魚を捌いていく。
「魚はカルシウムが高いからな……これで背が伸びてくれれば善いんだが」
 本人がいれば「余計なお世話」と言いそうな事を呟きつつ、全て捌き終わった。
 それを大きめの皿に円状に配置。最後に中央に大根のすりおろしを乗せて出来上がり。
 小学生男子とは思えない手際の良さである。
 更に焼き魚、竜田揚げ、マリネ、煮付け、しじみのみそ汁を作り……最後に、前準備で仕込んでいたきゅうりと白菜の漬け物を添えて完成。
 量よりも質にこだわった、丁寧なメニューである。
「よし。さあ、冷めない内に食べてくれ!」
 日本の旬のものをふんだんに取り込んだ楓の料理は、審査員にもかなり好評だったようだ。
実は魚が一番好きだったりする某団長も、一瞬で平らげたとか何とか。


〇誤爆姫ことマジカルほのみんの場合。

 多くの調理人達の中でも、一際変なというか……独特な雰囲気を漂わせていたのがその調理台であった。
「♪~♪~♪♪~…こっこっでっ愛情ーーーっ!」
鼻歌……にしては妙に大きな声で歌いながら、仄水は茸の炊き込みご飯に使う舞茸やエリンギなどの材料をリズム良く切っていた。
 香りを引き立てる為に松茸を少量くわえ、炊飯器のスイッチオン。
 更にタルタルソースがかかった秋鮭のムニエルにレモン汁をかけ、秋鮭の残りであら汁を作り始める。
 素材の無駄を出来るだけなくし、更に各料理のポイントを外す事もしない。見事な腕前だ。
 ……だが。
「レイナさんに食べてもらうなら全力で!和風和風わふー!ヽ(>ω<)ノ」
両手を上げてわふーわふーと楽しそうにはしやぐ仄水。
 びっくりするくらいの物凄いハイテンションである。暴走すれば凄まじいのは周知の事だが、今日はいつにも増して元気だ。
「おお、何やらすごい楽しそうですね」
 各参加者を回っているメイン司会者が、マイクを片手に仄水の所にきた。
 それに気付いた彼女は、メニューの一つである特製芋羊羹をおもむろに司会者に指し示した。
「この芋羊羹は、渋めのお茶と飲むのがお勧めです」
「なるほど……。仄水選手、これはかなり期待できそうです!」
マイクを使って実況する司会者に向けて、おもむろに仄水はずいっと入った湯呑みを突き出した。
 よく見れば、その中から湯気が漂っている。どうやら熱いお茶が入っているらしい。
 そしてそれを――。
「お茶ー!玉露茶ー!……あちゃー!?」
叫びながら自ら一気飲みをして、仄水が悶絶した。
「…………。つ、次の選手に行ってみましょう!」
 さすがに反応に困ったらしく、司会者は見ないふりをして去っていった。
なお、この元気さが功を制したのか調理中のパフォーマンスの点数は全参加者中で一位だった。

〇神出鬼没な猫少女の場合。


 望は困っていた。
 いや多分実は大して悩んでもいないのだろうが、彼女にしては悩んでいた。
(ディナーなんてどうすればいいかわかんないにゃー)
 お気楽な馬鹿少女という称号を持っている彼女である。元より料理は深く考えたことがない。
 しばらく調理器具と材料を見ながら、じっと考えた末に彼女が出した結論は……。
「とりあえず豪快に作っておけばいいかにゃー」
シンプル・イズ・ベストだった。
 決して、考えるのが面倒くさくなっただけだろとかは言ってはいけない。これでも彼女は真剣なのである。多分。
 しかし……。
「でも、ちょっと材料が足りないかにゃー」
 そう、彼女が目指す物を作るには不足している。
 どうしたものかとその辺りを見渡して……望は何かを思いつき、いったんその場を離れた。


~5分後~


「これだけあれば大丈夫かにゃー」
 望の調理台の上には、これでもかというくらいに卵があった。
 明らかに先程まではなかったものである。
 周りに目を向けると、他の参加者達が「ある材料」が減っていると首を傾げている光景が見えたが……まあこれも大した問題ではあるまい。きっと。
「さて、始めるかにゃー」

 かぽ。かちゃかちゃ。じゅー。
 かぽ。かちゃかちゃ。じゅー。
 かぽ。(後略)

 しばらくのち。
「こ、これは……!?金村さんの目の前におっきな卵焼きが出来ています!」
 望が作っている物を見て、文が驚きの声をあげた。
「ギネス記録を狙ってみたにゃー」
ありえないくらい大きな卵焼きによって顔が見えなくなっている望が、得意そうに言う。
 しかしさすがにこれだけでは駄目だと思ったのか、その後に栗ご飯と豆腐のみそ汁を作ったようだ。
 後者二つは至って普通の分量である。
 ただ卵焼きのインパクトがでかすぎて、単なるおまけにしか見えない。
「……ところで、卵焼きのギネス記録ってあるんですか?」
「知らないにゃー」

 ――この後卵焼きは、審査員の人達でわけてどうにか完食されたという。
 その内のほぼ大半を一人の少女が頂いたという裏話は、激しくどうでも良いので割愛する。


〇ぐるぐる眼鏡君の場合。

「審査員とおやびんを唸らせる料理を作るのです!」
 そう意気込んで翔が鍋で作っているのは、カレー。
 明らかに審査員の一人である少女だけを狙っているとしか思えないが、実はただ単にカレーしか作れないだけである。
 ……もっとも、中学生としてはある意味正しいのかもしれない。
(カレーは少し得意ですが……かといって、これだけでは勝ち目はなさそうですからね。この猫島もそんな事ぐらいはお見通しでやんす)
 そこで、彼が選んだのは……。
「食べる人の健康を考えたカレー!これで勝利はいただきです!」
そう……なす、かぼちゃ、ほうれん草、トマト――色々な野菜をほうり込んだ、特製カレー!
 野菜嫌いな子どもでも、カレーと一緒なら食べられるという事も少なくはない。
 そんな野菜を美味しく頂くことのできるカレーを目指し、翔はレシピを見ながら料理に奮闘する。
「よし、後は10分間煮込んで……野菜の原形がなくなるまで突くべし突くべし突くべし!!」
 残像すら見えそうな速度で翔がさい箸を動かした。
「ふう、これで完成です。……あ、これは文さん。ちょっと試食していかれませんかー?」
「え、良いんですか?」
 ちょうどタイミングよく通りかかった文を見つけた翔が手招くと、文は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「えへへ、さっきから美味しそうなお料理ばかり見ていたから、ちょうどお腹が空いていたんですっ。何を食べさせてくれるんですか?」
「これです!」
 翔が自信たっぷりに、器に盛った野菜カレーライスを差し出す。……すると、なぜか文の頬が若干ひきつった。
 それもそのはず。そのカレー、野菜を原形を留めないくらいにぐちゃぐちゃにしたものだから、なんかこう……凄まじくグロかった。
 形容する言葉がないわけではないのだが……ここで出すのはさすがにアレな為、伏せておく。
「あれ。どうかしましたか?」
 じっと見つめたまま固まった文を見て、きょとんとする翔に慌ててふるふる首を横に振る。
「い、いえ!えっと……いただきますっ」
 律儀に両手を合わせて、スプーンを手に取る。
(み、見た目はちょっと怖いですけど……。カレーなら美味しいですよねっ)
 やや涙目になりつつも、恐る恐るカレーライスを掬って口に運ぶ。
 パクッと食べて、一噛み。
(あ、普通に美味しいで……――――!!?)
「ひゃ、ひゃら……辛いです~~~~~!?」
「あ、文さん!?」
 口元を押さえてどこかに走り出してしまった文を見送り、翔はぽりぽりと頬をかいた。
「……激辛スパイスを入れすぎましたかね」
 ――なお審査では、某少女はこのカレーを何の苦もなくそれはそれは美味しそうに食べたらしい。

 訓:料理はちゃんと自分で試食してから、人に勧めましょう。


〇微妙に世間知らずな卒業生の場合。


「皆さん楽しそうですね♪私も負けていられませんわ」
 仲間達の調理光景を見ながらくすくす笑っていたシャルロッテは、自身の調理に集中するべく施設を手元に向ける。
 持参してきた飯盒で、これまた自ら持ってきたお米を研ぐ。
 米は研ぐ時に時間をかけすぎてはいけない――素早く研ぎ水を変え、色が白くならない程度まで研ぎ終わった。
 米は水に漬けておいて、その間に都合よく準備されていたかまどの支度を始める。
「……あの、シャルロッテさん」
「はい、なんでしょう♪」
 かまどに火をつけ、飯盒をにこにこと見守っていた彼女に背中から文が声をかけた。
「えっと……その格好は一体……?」
 ちなみにシャルロッテが着ているのは、いつもの黒い洋服である。
 ただし――その上に纏っているのはトレードマークの朱い外套ではなく、何故か割烹着。
「これが日本でお米を炊く際の正装と聞きまして♪」
 誰からそんなデマを教えてもらったのだろうか。
 が。
「さ、沢城さん沢城さん……そうなのですか!?」
「ええい、俺は今は謎の料理人kだと……!……だがまあ良い。そうだな、シャルの言う通り、割烹着は日本の料理人の伝統文化だぜ」
「そうだったのですねっ。今度ボクもご飯を炊く時はやってみます!」
 ……ボケと天然しかいないこの場では、勘違いを修正するどころか更に増長させるだけだったようである。
「くすくす……この際家庭科室。の正装にしましょうか。……あ、もうご飯は炊き上がったようですね」
 とてつもなく嫌な提案をしたシャルロッテが、飯盒を取り出した。
「そういえば、シャルロッテさんは何を作られるのですか?他に何かを作っているように見えませんけど……」
 開始する前と同じように、調理器具等が綺麗に並べられている調理台を見て文が首を傾げると、シャルロッテはくすっと笑ってその答えを言った。
「おにぎり、ですわ♪」

 料理を勉強し始めたばかりだというシャルロッテは、本当に軽く塩を振っただけのおにぎりを提出した。
 普通なら一蹴されそうなものだが……わざわざ飯盒で炊いたところが何故か妙に好評で、それなりに得点は高かったらしい。


〇方向音痴な本格派メイドさんの場合。

 仲間達がそれぞれに個性溢れる調理をしている中、この少女は真剣に勝利を目指していた。
いや、他の者達も真剣ではあるのだろうが……なんかこう、まともにコンテストをしている楓や彼女の方が異端に見えてしまうのは何故だろうか。
 まあ、そんな事も彼女にとってはやはりどうでもよく……。
(南瓜サラダに5~6分ほど、トマト風味のボンゴレスープ30分くらい、鶏のポワレのキノコクリームソースには15分少々、フランス風林檎パイに1時間程……といったところでしょうか)
 前菜、スープ、メイン、デザート……それらにかかる所要時間を頭の中で計算し、ばたばたと忙しく、されどメイドらしい優雅さは保ったままに料理を作り上げていく。
メイド喫茶のメイドはメイドではない……という話を聞いたりするが、ならばアメルは本物のメイドのそれであろう。
 「コスプレか?」などと思っていた見物客達も、その働きぶりを見て一様に驚いた表情をしていた。
 中には携帯で写真を撮ろうとしている者もいる。
(「魅せる」ことも時には必要、ですからね)
しかしアメルはそれらの不躾な視線に動じる事もなく、逆ににっこりと微笑んでみせた。
 「おおお」と声をあげる見物客達から一旦意識を切り離し、再び料理に集中する。
(さて、思っていたよりも時間はあるようですね。これなら同時進行をする必要はなさそうです)
 一つ一つの料理に集中できるという事は、それだけミスも減るし料理のクオリティも上がる。
 たくさんの見物客の中でも動じない胆力を持っていた彼女は、コンテストという場であっても自身が作れる最高の料理を生みだした。
「それでは採点、お願いいたします」
 ――この料理が美味しくないわけもなく、審査員達にかなり好評だったのは言うまでもない。




ぴぴっー!
「…終了ですっ。皆さん、お疲れ様でしたっ」 
 こうして、コンテストの料理作成時間は終了となった。
 後は結果を待つだけだが、しかし家庭科室。の能力者達にはやることがある。
 このコンテストを何事もなく終わらせる為の、最後のお仕事が。


●戦闘前でもお構いなく。


 コンテストに参加しなかった要姫とヴァイスリットと合流した十人は、大会が開催されている場所とちょうど対称になる位置に当たる、公園の隅の方へと移動する。
 辺りはすっかり暗くなっていて、ところどころに設置してある外灯が、舗装された道を控えめに照らしていた。
「一応胃薬は置いていきましたが……食べすぎないといいのですけれど」
 しん、と静まり返っている辺りとは対称的に、賑やかな喧騒が聞こえてくるコンテスト会場を振り返って要姫が言った。
 これから戦いに出向くのは自分達よりも、一人の少女の腹痛の心配をするのは、やはり経験による自信の表れだろうか。
「このままでは世界の食糧危機ですからね。ここは子分兼お兄ちゃんが何とかしなければ!」
「強化暴走されたレイナたんの胃を満たす、か……。並大抵のことではなさそうだ」
 やたら意気込む翔に、何か間違った認識をして真剣な表情で考え込む楓。
「レイナさんのハグチャーンス!?これはもう、燃えるしか!」
「あー……まあ、あんまり油断しすぎないようにね?」
 完全に私利私欲に走った燃え方をしている仄水を見て、ヴァイスリットが思わず苦笑をもらした。
「大丈夫ですよ、戦いになればきっと皆さんマジメに……!……大丈夫、ですよね?」
 そんなヴァイスに明るく言った文だったが、ふとある人を思い出してちらりとそちらの方を見て、不安げな表情になってしまった。
 その視線の先には、何故かまだフリフリエプロンを着けているカズマの姿。
 しかしその視線に、カズマは憮然とした表情をした。
「心配しなくていい。同じ姿形、同じ思考をしていてもそれは偽物だ。俺が興味あるのは本物だけだからな」
「カズマさん、そのやけに大きな荷物は何にゃー?」
「あ、おいそれは……!」
 背後に忍び寄っていた望が、カズマが持っていた鞄を奪い取って開ける。
 そこには、チア服セーラー服某レストラン制服浴衣チャイナドレス学ランメイド服、他色々とある衣装セット。
『…………』
「ち、違うぞ!?それはある筋の人からもらってな……!」
 言い訳は見苦しいです。しかも言い訳するべき部分がおかしい気がするし。
「皆さん、遊ぶのはそのくらいで――。現れたみたいですよ」
 歩きながらそんな風にがやがやとやっていたのが、アメルのやや緊張を含んだ声がその騒ぎに終止符を打った。
 皆がその声に正面を見ると……遠く道の先に、黒いドレスを着た金髪の少女と、夜の闇に紛れるかのように黒い獣二匹の姿。
 まだ遠すぎるのと、辺りが暗いのとで顔まではよく見えないが……間違いなく、例の偽レイナだろう。
「さて……いよいよですか」
 戦いの予感への高揚感からか、シャルが不敵な笑みを浮かべて呟いた。


●開戦!

 微かに届く匂いにつられて夜道を歩いていたレイナ(偽)は、道中にいる人影を見て足を止めた。
 足元に付き従っている二匹の獣も、それに合わせてぴたりと止まる。
(……何か、嫌な予感がする)
 彼女が目指すのは料理だけ。すれ違う人など、どうでもいいのだが……微かに殺気のようなものを感じていた。
 ――と、突如その者達の「気」が膨れあがる!
「!?」
 敵……それも、相当な力を持った。
 そう認識した偽レイナは、瞬時に行動に出た。

「……逃げる!?」
 イグニッションをした後、旋剣の構えを取りながら前に出ようとした要姫だったが、急にきびすを返して走りだした偽レイナを見て驚きの声をあげた。
「させません……!」
 強化アビリティを持っていないアメルが、その背中にブラストヴォイスを使って攻撃する。
 声は衝撃波となり、彼女達に襲いかかる……が、偽レイナは振り向きざまに手を払う動作をして難なく打ち消した。
 狼二匹には当たったようだが、よろめきもしない。大したダメージは与えられなかったようだ。
 そうこうしている内に、偽レイナは射程の範囲外へと逃れる。彼女は背を向けて走ったのまま、おもむろにニワトリを取り出すとちょこんとその金色の髪の上に乗せた。事前の情報によると、旋剣の構えと同じ効果らしい。
 ニワトリは楓達の方を向き、羽を広げて――。

コケーッ!バッサバッサ。

 頭の上に乗っかったまま、威嚇(のようなもの)をしてきた。
「……力が抜けますね。もうハグしに突っ込んでいいですか?」
 犬に似た狼を二匹引き連れて、ニワトリを頭に乗せた幼い少女。
 戦闘時でもなければほのぼの以外の何物でもない光景を見て、仄水が誰にともなく言う。
「止めておけ、一応な。……ふむ、逃げようとしているのではなく、先にできる限り強化しようとしているのか?」
 今度は炒飯を取り出して、自分と狼に食べさせている偽レイナを見て楓が呟く。
 あれも黒燐奏甲と同じ効果らしい。どういった理屈かはさっぱりわからないが。
「それなら、こっちもそうするまでにゃー」
 このまま追いかけてもいいが、アビリティの射程外で移動速度が変わらないのなら無駄なことである。
 そう判断して、要姫と望が黒燐奏甲を皆にかけて回った。全員にはできないが、それでもやるに越した事はない。
 やがて準備が終わったらしく、偽レイナと狼達が走って向かってきた。

 偽レイナはある程度近づいた所で立ち止まり、狼達はそのまま突っ込んで来る。
 それを、先頭に立ったカズマが不敵な笑みを浮かべて迎え撃った。
「俺の拳は凶暴だぜ……?くらえ、とう!」
 そう言いながら、カズマはどこからともなく出した出来立て炒飯を、皿ごと狼達に向かって放り投げた!
 狙い通り、狼の一匹が食ついてくる。
「くくく、かかったな馬鹿め!……って何、一瞬で食べ切っただと……!?ぐはぁ!?」
 狼はまるでマジックのように炒飯を一粒残さず食い尽くし、走ってきた勢いを殺す事なくカズマの顔面に体当たりをした。
 直撃をもらって、思いっきりのけ反るカズマ。
「まず一人……沈みなさい!」
 そこへ後方にいた偽レイナが、追い撃ちをかけにブーメランのごとくちゃぶ台を投げる!すでに返してないじゃんとかは気にしない!
(やばい、いきなり落ちる――!?)
 凄まじい勢いで迫るちゃぶ台に対し、カズマは体勢を立て直せていない。
 が……幸い、開始直後にいきなり倒れるようなことはなかった。
「危ねぇっ!」
 射線上に割り込んできたヴァイスリットがカズマを庇い、剣で受け止めた。
 さすがに完全に止めることはできず、衝撃でややダメージはもらったが……まだまだ大丈夫といえる範囲である。
「覚悟しろレイナたん!」
 やや流れが悪いのを見て、楓が土蜘蛛の檻を使った。体内で精製された糸が一人と一匹を襲う。
 偽レイナは剣で振り払い、狼の内一匹はすばやくかわされはしたものの、カズマに体当たりした狼には命中してマヒさせることに成功する。
「……ふふ♪今はあなた達よりも可愛い客人がいますからね」
「弾幕張るよー。火炎放射ー!」
 シャルロッテの銃からは雷の力が込められた銃弾が発射、そして仄水が開いたレシピ本からは大きな炎弾が浮かび上がり、それぞれマヒした狼を貫く。
 放電と炎が爆ぜる光とによる一瞬の彩りを、更に飛来した黒い弾が爆発し闇に覆い隠した。
「纏まってくださった方が、ありがたいのですけどねぇ……」
 黒い弾――暴走黒燐弾を放った要姫がぼやく。
 ちなみに、もう一匹の狼はというと。
「たーっ」
ガウガウガウッ!
「ひゃぅぁ~!?」
 フリスビーを投げてきた文を追いかけまわしていた。
 文は悲鳴をあげてはいたが、逃げ回るその表情はどことなく楽しんでいるようにも見える。
「大丈夫なのでしょうか……?」
 ヒーリングヴォイスで、カズマとヴァイスリットの傷を癒したアメルが呟いた。
 楽しんでいるようだし、結果的にとはいえ狼の一匹を引きつけてくれているのでありがたくはあるのだが。
 アフロ型の呪髪を装備した望の背から生えた蜘蛛の足が弱っていた狼を刺し貫くと、その狼は消滅した。
「文さんの犠牲は無駄にはしません……後は僕に任せてください!」
「すでに見捨てる気満々にゃー。死亡フラグ?」
「それは誰にフラグが立つんですか!もしかしてあっし!?」
 不吉なこと言わないでくださいー!と叫びながら翔が繰りだした雷の魔弾が、夜闇を切り裂いて偽レイナに当たる。
 普通の人間ならば一瞬で焼き尽くせる雷光は、しかし幼い少女をわずかに後退りさせる程度の成果に終わった。
「欝陶しい人達……」
 己の飢餓を満たすのを邪魔する者達を憎々しそうに睨みつけると、偽レイナは手を振り上げた。
 すると、彼女の周りに無数のニワトリが突如現れ――たった今攻撃してきた翔を中心としてコケーッ!と襲いかかる!

 ……見た目はファンシーなこの攻撃だが、威力は割りと洒落にならなかったらしく。
「な、なかなかに強烈だな……」
 翔の近くにいた為、運悪く巻き込まれた楓が森羅呼吸法を使って回復する。翔と望も各々にアビリティで傷を癒した。
 基本攻撃力は低いとの事だったが……二重の強化により、むしろ本物よりも威力があがっているような気がする。
「猿まねとはいえ、さすが強化型……といったところでしょうか」
「集中しないと、簡単にハグ……もといハグできそうにありませんね」
「仄水、言い直したのにまったく同じ単語になってっぞー……?」
 要姫の言葉に仄水が真剣そのものな表情で頷くのに、ヴァイスリットが無駄だと悟りつつも控えめに言う。
 ともあれ、まずは残っている狼を叩くことにした。
 「まだまだー!」と言いながら骨を投げたりしている文と追いかけっこしている狼に、炎や雷の魔弾、 フレイムキャノン、牙道砲による集中放火が襲いかかる。
 その攻撃の嵐に耐え切れるわけもなく、もう片方の狼も消滅した。
 残るは――偽レイナ、ただ一人。
「助けはこないぜ、子猫ちゃん……?」
 いつの間にかレイナの後ろに回り込んでいたカズマが、くっくっく、と嗜虐的な笑みを浮かべた。
 これではどちらが悪役だかわからない。もし正義のヒーローがこの場に乱入したら、間違いなくカズマの方を倒しそうな気さえする。
「……良いでしょう。纏めてかかってきなさい」
 すっと偽レイナが目を細め、『本物』の仲間達にハリセンを構えた。
「ふふ、覚悟してくださいね……?」
 金髪の女性……シャルロッテが言う「覚悟」の、本当の意味も知らないまま。


●敵は後ろにいました。


 戦いは激戦になった。
 偽レイナは相当強化されているらしく、やたらとタフだったのにも加えて……なかなか状態異常にかかってくれない。
 しかも倒す前にマヒさせて色々やろうとしている魂胆の為、うっかり倒してしまわないようにと、全体的に攻撃がやや控えめになってしまっている。
「涼やかに響いて。癒しの歌声よ……」
アメルの癒しの歌が戦場に響き渡り、傷ついた仲間達を癒す。
「ちっ……!いい加減に当たってくれ!」
 疲労の色を隠せない楓が、何度目かの使用になる土蜘蛛の檻を発動させる。
 まだ誰も倒れてはいないが、無傷な者もまたいない。これが外れたら、なりふり構わず全力でいくべきか……そう考えながら、祈るような気持ちで精製した糸を投げる。
 ――果たして、その祈りが通じたのか。
「しまっ……!?」
 糸に絡めとられ、偽レイナが呻く。
 何とか振りほどこうともがくが、粘りつく糸はなかなか取れず――むしろ、動けば動くほど深く絡みついてきた。
「くっ、こんなもの……!…………?」
 そこで、偽レイナが怪訝そうな表情をした。
 何故、マヒしたのにこいつらは攻撃してこない?いや……それよりも気になるのが、一部が妙な笑みを浮かべている事だ。
 すごく、嫌な予感がした。その時――。
「背後とったぁ!わふー♪」
「なっ……!?」
 突如、後ろから仄水ががばっと抱きついてきた。ぎゅーっと抱きしめられ、頬ずりまでしてくる。
「な、何を……くっ、離しなさい!」
 完全に予想外な行動に出られ、やや狼狽しながら叫ぶ偽レイナ。
「ふふ……そう嫌がらなくても良いですのに。本当に可愛いのですから……♪」
 正面から近づいてきたシャルロッテが、優しく撫でながら仄水と挟み込むようにそっと抱き着く。
「GJだ楓!お主こそ三国一の土蜘蛛よ!」
「まあ、愛の力という奴だな」
 カズマがぐっと親指を立てるのにそう返し、楓も偽レイナを撫でる為に近づきにいく。
 望や翔も、それぞれ悪戯や愛でる為にその輪に加わっていった。
「あらあら、皆様楽しそうですわね。うふふ」
「……止めなくていいのかっつー気もしなくもないけど」
「私達にそれができると思いますか?」
「……無理、だろうなぁ」
 遠巻きに見物しながら、互いに苦笑しあうアメルとヴァイスリット。
 その横でにこにこしながら眺めていた文が、ふとあの輪の中に要姫がいない事に気付いた。
「あれ、要姫さんは参加しないのですか?……って、あの……要姫さん?」
 輪から少し離れた所に立っている要姫を見つけて文が覗き込むと、彼女は偽レイナと皆が戯れている様子を観察しながら……ちょっぴり不機嫌な表情をしていた。
 どうやら、中に入りたいが皆が遊んでいて入りにくいらしい。
 時間が経つにつれて、段々その不機嫌度が上昇していくのが目に見えてわかる。

「おやびんが他の人に取られるぐらいならー!!」
「わふー、そう簡単にあげませんよ!」

 ピクピクッ。(頬が引き攣る音)

「ほら、よしよしかわいいな」
「楓、どうせならこの衣装を着せ替えさせて――」

 ピクピクピクッ。

「見た目通りほんとにないにゃー。パンツの色はどうかにゃー」
「なっ、どこ触って……!す、スカートめくらないでっ!」

 ピクピクピクピクッ!!――――『ぶちっ。』

 同時だった。
「あーーーーー!もう、まとめて吹っ飛ばして」
「いい加減にして!!」
「差し上げますわ――って、へ?」
 切れた要姫が、味方ごと巻き込む暴走黒燐弾を放ったのと――マヒから治った偽レイナが、自身を中心にコケコッコストライク×たくさんを発動させたのは。
 要姫が呆けた表情で、自分が撃った漆黒の弾を見るが……今更止めようもなく。
 暴れ回っているニワトリ達に仲間が蹂躙されている場所で、更に追い討ちをかけるかのように黒い爆発が巻き起こった。

「あなた達って人は……!」
 皆が偽レイナを愛でていると、突如本物のレイナがやってきた。
「そうしたかったのならばもっと普段の私を可愛がりなさいよ!」
 頬を赤らめて、そう主張するレイナ。
 それを見たシャルロッテが、くすくすと笑って手招きをした。
「あらあら……レイナさんったら、それならばこちらにいらっしゃいませ♪」
なんというツンデレ、これぞ真の師匠デレ。

 二重攻撃を受けて倒れる寸前、シャルロッテの脳内にこんな光景が浮かんだとか浮かばなかったとか。
 ともあれ……偽レイナと戯れている最中にまさかの二重攻撃を受けた仄水、望、楓、翔、そしてシャルロッテは、完全に伸びてしまっていた。
 誰もが倒れて――いや、その場所でただ一人だけ、ゆらりと立ち上がる者の姿があった。
「はぁ、はぁ……。よく、も……」
 その正体は言うまでもなく……偽レイナ。
 衣服をあちこち乱して、肩で大きく息をする少女の表情は恥辱によって真っ赤に染まり、そしてちょっぴり涙目で立っている者達を睨みつけている。
「もう、許さない!!」
 そう叫ぶと、偽レイナはハリセンを手に地を蹴る。
 狙いは……後衛に控えているアメル。
「まずっ……!」
 誰かが叫んだ。
 アメルはまだ戦闘の経験が少ない。先程のマヒで強化は解除されたとはいえ、消耗した今の状態で一撃をもらって果たして耐え切れるか――。
 だが、偽レイナがアメルの元へ到達しようとしたその時。
「――ッ!」
 横手から回り込んできた文が、一瞬だけその双眸を紅く染め闇のオーラを纏った剣で偽レイナの脇腹を薙いだ。
 遊んでいるとかだけで、戦いにはまともに参加していない者……文をそう思い込んでいた偽レイナは完全に虚を突かれ、まったく反応できずにその攻撃をくらう。
 そこへ――。
「三流芸人が……いい加減に倒れなさい!」
「ぶっ飛ばして差し上げます!」
「ごめん、ごめんなレイナ!」
 要姫の漆黒の剣、アメルの力ある歌声、泣きながら放ったカズマの炎を纏った拳が、続けざまに襲いかかった!
 その怒涛の攻撃に、偽レイナの膝がくずれかける。だが――。
「……ぁぁぁああああっ!!」
 凄まじい気合で吼えると、その状態から偽レイナは無理やりに体勢を立て直した。肉体すら凌駕する、能力者の魂の力……驚くべき事に、それすらもこの地縛霊はコピーしていたのだ。
 再び顔を上げた偽レイナは――その蒼い瞳に、剣を振り上げている男の姿を写した。
「これで……終わりだ!」
 ヴァイスリットが突いた剣の切っ先が、驚きに目を見開いている偽レイナの胸を貫く。
「……―――――」 
 偽レイナは、最期に何事か呟こうとして……その姿が若い男性のものになるとほぼ同時に、淡い光とともに消滅した。


●二つの戦いの果てに。

「何だろう……この妙に満ち足りた気分は」
 料理コンテストの審査も終わった帰り道で、カズマが遠い目をして呟いた。
「楽しかったですね、またやってみたいです♪」
 そんなカズマを見て文がにこにこ笑いながら、楽しげに言う。
 彼女のお陰で料理コンテストも盛り上がった、と大会運営の人から随分感謝されたらしい。
「……怪我していた人たちは、大丈夫なの?」
 レイナ(本物)が、偽レイナと要姫とのダブルアタックで戦闘不能になっていた人達を少し心配そうに見る。
 まさかそんなに苦戦はしないだろうと思っていたレイナだったが、半分がぼろぼろになっているのをを見てかなり驚いた。念の為にと自分で活性化していた黒燐奏甲を使って、傷は治したが……。
「まあ、まだ少し痛むが大丈夫だろう。早めに傷も治してもらったしな」
 楓の言葉通り、その表情に辛そうな様子は微塵も感じることはなかった。
「でも……」
 自分だけが戦闘に参加しなかった負い目からか、それでもやや気にした様子を見せるレイナ。
「気にしなくてもよろしいのではないですか?ライデリングさんが直接怪我をさせたわけではないですし」
 要姫もフォローを入れる。まあ、怪我の半分は彼女の責任でもあるわけで……そういう意味で、ちょっと彼女も負い目を感じているのかもしれない。
「どーしても気になるというのなら、ハグさせて下さい♪」
「なっ……ちょ、ちょっとほのみん……!?」
 がばぁっ、と後ろから抱きついてきた仄水に狼狽する。
 だけどまあ、今日ぐらいはいいか――珍しくレイナがそう思いそうになったその時、翔が何やら叫び声をあげる。
「あー、ずるいですよ!仄水さんがやるなら僕だって……!」
「あなたは駄目!?」
 思わず速攻で拒否して、なんでですかー!と抗議してくる翔を牽制していると、今度は望がレイナに近づいてきた。
 何かしてくるのか、と身構えていたが……そんなことはせず、彼女は何やらスカートの辺りを見てくる。
「……どうかしたの?」
「いや、やっぱり偽者とはスカートの中身も同じなのかと、ふと気になっただけにゃー」
「ああ、なるほ……ってちょっと待った、あなた達地縛霊に何をやってきたの!?」
 普通に頷きかけてから、その言葉の意味に気づいたレイナが叫んだ。
 周りを見渡したレイナが、カズマが何やら意味ありげな笑みを浮かべているのに気づくと、イグニッションカードを抜いて彼に一言、
「殺す」
「ええ、俺何もしてないよ!?剣を抜くのはちょっとま――!」

「皆様元気ですね……近所迷惑にならないといいのですけれど」
 集団の後ろから、ぎゃあぎゃあと騒ぎはじめた一同を眺めていたアメルが呟く。その手には、コンテスト優勝の証である賞状とトロフィーが、街灯の光を反射して控えめに輝いていた。
「まあまあ、楽しそうですから良いじゃないですか。きっと皆さんも、本物のレイナさんが一番だと改めて思っているのですよ♪」
 にこにことその様子を微笑ましそうに眺めるシャルロッテの言葉に、ヴァイスリットも苦笑しながら頷く。
「やっぱり、本物が一番だよなー……」
 ヴァイスリットは、刺し貫いた感触がまだ少しだけ残っている自分の手を見つめた。偽者と割り切っていても、やはり後味が悪いものは悪い。彼女の姿のまま消滅しなかった事が、辛うじての救いだったろうか。
「おーい、二人ともこないのかー?」
 そんな彼らを振り返り、楓が声をかける。
 その声で見てみれば、いつの間にかシャルロッテは皆の中に加わってレイナを弄っていた。
「……どうします?」
 アメルがヴァイスリットの方を見る。
「どうするっつわれても……まあ、やりすぎないようにブレーキかける奴はいるんじゃないかと」
「ふふふ、そうですね」
二人は笑い合うと、走って仲間達の元へと向かう。
無数の星々と、満月の優しい光が、わいわいと騒ぐ彼らをそっと見守っていた――。
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